隠し続けていた「過去」が、私を唯一無二の存在に変えたイギリスでの日

生き方とキャリア論

一年半前に、一人イギリスに渡り、イングランド4部に所属するクラブのピッチに立っている今、私はずっと一つの大きな劣等感を抱えてきました。

WEリーグやなでしこリーグという日本のトップリーグで戦ってきた選手たち。
いまのイギリスでのチームメイトたちも同じ。様々な実績を持ち、小さい頃からサッカーの道だけを突き進んできた仲間たち。 それに比べたら、私のレベルは低い。知名度もない。
「看護師をしながらサッカーをしていた自分」という過去は、私にとってサッカーキャリアに泥を塗るような、隠したい「マイナス」でしかありませんでした。

イギリスに来てからの半年間、私は自分が日本で看護師だったという事実を、自ら語ることは決してしませんでした。「看護師をしていた=サッカーに本気じゃなかった」と思われるのが怖かった。
サッカーのレベルが低いと評価されそうで嫌だった。SNSを交換するのすら、フォロワー数やこれまでの歩みを見られるのが怖くて、躊躇していました。

「人生がもう一度あるならば、幼いときからサッカーの道だけを選んで本気でサッカーだけを追求して挑戦してみたいな」 そう思うこともありました。

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「マイナス」だと思っていた過去への眼差し

イギリス生活が1年半を超え、現地での関係性が深まるにつれて、少しずつ自分のキャリアを話す機会が増えてきました。

たいていの人は、驚きます。 「病院で働いていたところから、一人でイギリスに来てサッカーして生活しているなんて!」 尊敬の眼差しを向けてくれる人もいました。

それでも私は、心のどこかで冷めていました。「別にプラスじゃない。話したところで、サッカーの実力は変わらない。一人で頑張ってるね、と慰めのような評価を受けるだけだろう」と。

しかし、私の思いとは裏腹に、隠し続けてきたはずの過去が、この異国のピッチで息を吹き返し始めたのです。


サッカーの現場で「看護師」が息を吹き返した

現在、私はフットボールアカデミーでコーチとして働き、毎日子どもたちと向き合っています。 子どもたちの海外遠征。初めて一人で飛行機に乗る我が子を心配する親御さんに、私は敢えて伝えてきました。「私は日本で看護師としてのキャリアがあります」と。

すると、親御さんたちの顔がパッと明るくなるのです。 Marieが一緒なら、本当に安心して預けられる」 「うちの子はアレルギーがあるから、あなたが帯同してくれるなら心強い

サッカーの技術を教える以前に、私は「Marieという存在がいる安心感」という、誰にも真似できない価値を提供していました。低学年の子たちは私を母親のように慕って懐き、お腹に赤ちゃんがいるお母さんからは妊娠中の相談を受けるようにもなりました。

新しく入会を検討するご家族と話すなかで、自分のキャリアを話すと、子どもが怪我をしても最高な環境が整えられているじゃないか、それならここに入会させたい、そう言ってくださったご家族もいました。

さらに、同僚のコーチたちに向けて、緊急時の応急処置やAEDの使用方法の講習も行いました。
「サッカーキャリアに泥を塗る」と思っていた私の経験は、いつの間にか現場に必要な「光」になっていたのかもしれません。

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動揺の空気を変えた、あの日の冷静さ

そして先日、ある大きな出来事が起こりました。

子どもたちのセッションのあと、親御さんたちがサッカーを楽しむ場所で、救急車を呼ぶほどの大きな事故が発生したのです。 現場にいるのは全員大人。その場で走るのは、大人たちでさえ隠せない「動揺」でした。予期せぬ事態に、その場の空気はパニックに染まりかけていました。

そんなとき「Marieさん、対応していただけますか」

一緒に働くコーチからの言葉で、私は真っ先に処置に当たりました。
救急センターや手術室という極限の現場で培われた、私の「日常」。
周りがどんなに動じようと、私の体と心は冷静だったと思います。

無事に事態が落ち着いたあと、言っていただけた言葉があります。
「Marieさんという存在がいるだけで、心理的安全が違う。あなたの冷静で迅速な処置に、本当に助けられた。」

一定数の人間がいる場所の空気や雰囲気というものは、人間が作り出します。
緊急事態であればあるほど、動揺が大きい状況であればあるほど、
どのような人がどのような動きや発言をするかによって、空気が良くも悪くも大きく変わります。

私という一人の人間が、過去通常通りにやってきた対応と、
過去の経験によって自然と培われた冷静さ(無意識です)と、どんなに動揺する現場であったとしても動じずに正確に動く人間がその場にいる。

それだけで大きいんだな
そう感じた出来事でした。

私がこれまで一生懸命やってきた看護師としてのキャリアは、1ミリも無駄じゃないのかな。
むしろサッカーという現場で、海外という異国の地で、これ以上ないほど強力に活かされている。

そう、改めて感じた瞬間でした。


マイナスは、誰にも代えられない「強み」になる

「自分にとってマイナスだ」と思い込んでいることは、実は他の誰にも代えられない、唯一無二の強みになるのかもしれません。

私は、自分の過去を自分で大切にできるようになってきました。
「サッカー選手としての私」と「命を守るプロとしての私」。 その二つが重なる場所にこそ、私にしか歩めない道があるのだと確信しています。

来月、UEFAが主催するサッカー現場での高度救命資格「EFAiF “Emergency First Aid in Football”」の講習と試験も受ける予定になっています。

私の歩んできた道は、回り道なんかじゃない。
そう思えてきた気がします。

すべての経験を燃料にして、私はこれからもイングランドのピッチを走り続けます。

コメント

  1. 中田 仁之 より:

    すべての経験は、今のマリエを形作っている強みです。胸張って、前向いて、まっすぐ生きていきましょう!

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